ARCHITECT LEGACY

Solid or Soft!?ギャップを愉しむ家
▲ クロス(十字架)のようにも見える特徴的な南面ファサード。シンボルツリーとしてモミジを植えた。

導かれるような出会いから、この家の物語は始まった

 100戸の家があれば、100通りもの住む人とつくる人との物語がある。なかには「運命」という大げさな言葉を使いたくなるほど、不思議な出会いから始まるものもある。Mさんと設計士の更級氏との出会いも、まさにそうだった。
実家や当時暮らしていた借家にも近いこの土地を、何かに導かれるように購入した直後、「お前の好きそうな家が近所にあるから見に来い」と友人からの連絡。果たしてそこには、Mさん夫妻がかねてから思い描いていた黒くてシャープな箱型の住宅が。住人に話だけでも聞いてみようと訪ねたその家が、更級氏の自宅兼設計事務所だった。
思いがけない展開に、計画はとんとん拍子に進み、出会いから半年も経たないうちに家は完成した。無理に急いだわけではない。目指すべき理想形がお互いに共有されていさえすれば、住まいづくりという作業は、それだけでシンプルで、スムーズに進むものなのかもしれない。
「年齢や家族構成が近いこともありましたが、なにより好みにギャップや温度差がなかったことが幸いしました」と更級氏。Mさんの奥様も「これ以上ないくらい、パーフェクトな仕上がりです」と笑顔で話す。
しかしながら、その「パーフェクト」を実現させたのは、偶然でもなければ運命でもない。価値観を共有したうえで、居住性にとことんこだわった設計者の技術力によるものだ。その具体例を見ていこう。
▲ 南側に大きくとった窓から射し込む光の情景が美しいリビング。夜には天窓から星が見える。時間とともに室内の表情が移り変わり、「どこにも出かけたくなくなります」と奥様。
▲ ハンモックのような吊り下げチェアもこの大空間なら存分に楽しめる。
▲1階は約25畳ほどのワンルーム。南面の4つの窓は3つが開閉式で吹き抜けの1つがフィックスに。オレンジ色のバーチカルブラインドがアクセントになっている。

マイナスをプラスに変えた採光のマジックと、伸びやかに広がる空間

 無機質でシャープな(奥様曰く〝倉庫のような〟)外観とは対照的に、一歩室内に入ると吹き抜けの広々とした空間に、あふれんばかりの光が降り注いでいる。家を訪ねた人が決まって感嘆の声をあげるというこの明るさは、実はマイナス要因をカバーするための発想から生まれたものである。
M邸の敷地は、南にいくにしたがって狭まる台形をしている。さらに東側は隣の敷地と近接し、プライバシーの観点からも大きな開口部はつくれない。そこで、唯一視線を気にしないですむ南面の壁いっぱいに、大きなガラス窓を4つ、「田」の字型に配置。東面は屋根を斜めに切り取るようにし、天窓を設けた。南面以外に大きな窓がないため、外観を見ただけでは「明るさは大丈夫なの?」と心配してしまったが、その不安は見事に覆されることとなった。
▲ テレビ台にもなっている低い収納家具は、散らかりがちな日常の細々したものを片付けるのに便利。大きなキャスターの付いたローテーブルも特別にデザインされたもの。
▲ガルバリウムの美しいラインが際立つ外装。建物の東側に大きな開口部を設けなかったことが、かえって建物のカッチリとした魅力を引き立てている。
 吹き抜けを通して見上げる天井は、小屋裏を設けず、すべて表しに。よく見ると天窓のある斜めの天井と壁も勾配に変化をもたせており、更級氏曰く「かなり複雑なつくり」になっている。「プランニング当初は梁や小屋束などの軸組を隠すつもりでいたのですが、棟梁に相談したところ『外から見たラインを生かそうよ』といってくれて。そのぶん手間をかけてくれました」
基調となる白と、ほどほどに取り入れた木のボリュームとバランスが絶妙。空間をできるだけ広く使えるよう、収納はほとんどビルトイン。余計な間仕切りもない。障害物のない室内を縦横無尽に走り回るやんちゃ盛りの兄弟。こんなに明るくてゆったりとしたスペースがあったら、大人だって駆け回ってみたくなる。
Mさん家族の満足度はもちろんのこと、「飽きのこない普遍的な家づくり」を目指す若き建築家にとっても、試金石とも呼ぶべき貴重な一棟になったに違いない。
▲ 2階の居室をつなぐ通路。階段や廊下の手すりをスチールとネットにし、吹き抜けの開放感をさらに強調。2階の寝室以外のスペースには、いずれ必要となるまで扉をつけないことにした。
▲ 奥様の希望であったオープンスタイルのキッチン。背面に大きな収納棚があるため、物があふれず、大変使いやすいのだとか。
▲ 階段に接したアートウォールの裏側は小さな書斎風のスペース。皮革品製作が趣味のご主人のアトリエになっている。
▲ 一見、倉庫のようにも見える外観は、新興住宅地のなかでもひと際、存在感がある。
▲ 圧迫感をなくすため、手元の横に明かり採りの小窓を設け、リビング側から見たときのアクセントにもしている。
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[ Mさんご家族 ]
決め手

雑誌を見て、こんな家がいいな!と思ったお宅が更級さんの家でした。実際に話をしてみると好みがピッタリ。話もしやすく、お会いした日に更級さんにお願いすることに決めました。


こだわり

すっきりとシンプルに。まとまりのある家。

お気に入り

梁が見える吹き抜けは開放感があって大好きです。夜空の星が見える天窓は、冬には雪がつもり、天気も分かります。

感想

更級さんの建ててくれた家は、オシャレなだけでなく生活もしやすいです。キッチンの造り付け収納は、ゴチャつきがちなキッチン用品がすっきり片付くので大満足、大きな扉も活躍しています。シンプルな家ですが、全く飽きることがありません。生活しやすく、飽きない家。更級マジックは最高です!

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PLAN
平面図


設計のポイント

変形した土地形状に逆らわずに設計することで敷地を有効利用でき、建物の形状を内部空間に生かすことで室内に変化と広がりが生まれます。一軒の家の中で、安らぎがありつつもしっかりとした部分を出そうと、素材の使い方にもメリハリをつけています。黒くカチッとした外観から一転、室内は自然素材の柔らかい空間——。そのギャップを自然な形で実現できたのではないかと感じています。

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DATA


敷地面積・・・・・・・・  174.73㎡ (52.85坪)
延床面積・・・・・・・・  113.24㎡ (34.25坪)
1F面積・・・・・・・・  66.98㎡ (20.26坪)
2F面積・・・・・・・・  46.26㎡ (13.99坪)
デッキ面積・・・・・・・  10.00㎡ (3.02坪)

工法/木造軸組在来工法 基礎/ベタ基礎 構造材/ヒノキ、スギ 断熱材/高性能グラスウール 主な外装仕上げ/屋根:ガルバリウム鋼板 外壁:ガルバリウム鋼板 主な内装仕上げ/床:ボルドーパイン無垢材+オスモ塗装 その他/リビング家具造作

■ 参考価格(完成引渡価格) 約1,750万円(税込)
※給排水工事・住宅設備・暖房・照明・家具含む
※掲載価格については、2014年4月以降、変更される可能性があります。

●著作権について
このページに記載されている記事本文、写真等は「住まいNET信州」VOL.14より転載しています。
こちらの情報の著作権は、住まいづくりデザインセンター信州に帰属します。
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