ARCHITECT LEGACY

建築家とともに創る愉しみ 松本市/S邸 家族構成/3人
▲ 屋根まで伸びた縦張り板が目をひく正面から見た外観。宅地の規制上、屋根は切妻に。「どうなるかなと思いましたが、教会のような雰囲気で面白くなったのでは」と設計の更級氏。

好奇心と柔軟性をもちながら住まいづくりという〝冒険〟を愉しむ

プラン充実のハウスメーカーを選ぶか、技術面を誇る地元工務店にお願いするか――。ひと口に住まいづくりと言ってもたくさんの選択肢がある中で、個人の建築家を選ぶ理由はどこにあるのか。実際に選んだ人に話を聞いてみると、どこか共通する感覚が見えてくる。それは、自分たちのビジョンはもちつつも、その先にある想像を超えた世界を見てみたいという好奇心。そして、そこに辿り着くまでのある種の〝冒険〟を、つくる側と一緒に楽しみたいという柔軟な遊び心をもち合わせていること、である。
住まい手のSさん夫妻×建築家・更級圭のコンビネーションで完成したこの家は、まさにそうした「ともに創る愉しみ」を十分に味わい尽くしたのだろうという気配に満ち溢れている。

▲ S邸のポイントの一つが、大胆に室内をまたぐ鉄骨の階段。しかも一般的な折り返しやL字ではなく、V字型! 柱を建てず壁面だけで支えているので、空中に浮遊しているようにも見える。
▲ ご夫妻のリクエストどおり広々とした開放感が漂うリビングダイニング。中庭に面した窓ぎわの一部だけが吹き抜けになっていて、高い位置の開口部を通して柔らかな日差しを取り入れている。
お二人のリクエストは明朗かつシンプル。①広いリビング ②独立した和室 ③プライベートな中庭 ④適量で効率のよい収納。
まず①について更級氏が提案したのは、なんと空間を斜めに削ぎ落とすこと。実面積は減るが、独創的なV字型の階段と斜めのラインを揃え、放射線状に広がりをもたせることで、視覚的な奥行きが増す。単純に〝面積=広さ〟ではないという設計手腕に驚かされる。
両親や友人が泊まることも想定して、個室の和室が欲しいという奥様の要望は、坪庭のようなインナーガーデンを間に挟むことで、生活動線からの独立性をしっかりと確保。②と③のリクエストはこうして一挙に解決した。
④の収納については、どの場面でどこに何がどれだけ必要なのかを洗い出し、玄関脇や寝室内の一極集中クロークや、廊下脇のデッドスペースを有効活用。適材適所を徹底したことで、モノが外に溢れ出ない、すっきりと整頓された室内空間が保たれている。
「生活スタイルに必要なものとそうでないものをあらかじめ把握されていたからこそ、〝なぜそうしたいのか〟という理由がわかりやすかったですし、私からも〝遊び心のある〟提案をさせてもらうことができました」と更級氏。
〝ともに創るという冒険〟を建築家と依頼者が同じ目線で愉しめたとき、家づくりは、想像を上回る完成度というゴールを用意してくれるのかもしれない。
▲ 横から見ると通常の折り返しのように見える階段。一人掛けソファが置かれた踊り場の下は、ご主人のお気に入りの場所なんだとか。
▲ 収納棚の扉のカラーは、悩んだ末に更級氏のチョイスで。「微妙な茶色のニュアンスがとても気に入っています」と奥様。
▲ インテリアのようにすっきりと溶け込むペニンシュラ型のキッチン。食器やストック食材、その他キッチン周りの日用品はすべて壁面棚に収納。どこに何をしまうのか計算した上で設計されている。
▲ テレビのある壁面と、階段の踊り場より上の部分が斜めの延長線で結ばれ、放射線状に広がるような奥行きの深さが感じられる。
▲ キッチンにいながらにしてすべてが見渡せるのも、小さなお子様のいる奥様にとっては嬉しいところ。「中庭を介して奥の和室まで見通せる風景も気に入っています」
▲ 中庭を挟んで対面するように配置された和室。太鼓張りの襖、掛け軸のかけられる床の間、和紙素材のブラインドなど、隅々まで和の趣ならではの気持ちよさが漂う。吊り戸棚にしたのは、下の空間に荷物を置いて広々と使えるように、というゲストへの心遣い。
▲ 階段上にできたホールの一角を利用して、ご主人の書斎コーナーに。個室とはいかないまでも、区切られた空間は“おこもり感”があって落ち着ける。
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PLAN
平面図


設計のポイント

土地や近隣状況などの限られたロケーションの中でも居心地が良くて、なおかつ格好いい建物にしたいと考えました。住んでいていつまでも新鮮で飽きのこない普遍的な家造りを目指し、全体の色彩など調和のとれたLDK、斜めのライン取りと鉄骨階段、離れの雰囲気がもてる独立した和室などは特に力を入れました。

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DATA


敷地面積・・・・・・・・  173.87㎡ (52.59坪)
延床面積・・・・・・・・ 145.02㎡ (43.87坪)
1F面積・・・・・・・・  82.09㎡ (24.83坪)
2F面積・・・・・・・・  62.93㎡ (19.04坪)

工法/木造在来軸組工法 基礎/ベタ基礎 構造材/ヒノキ、スギ、米マツ、米スギ 断熱材/天井:高性能グラスウール200㎜、壁:高性能グラスウール100㎜、床:基礎断熱仕様 主な外装仕上げ/屋根:ガルバリウム鋼板、外壁:窯業系サイディング下地吹き付け塗装仕上げ・ウエスタンレッドシーダー羽目板張り 主な内装仕上げ/天井:クロス、壁:ルナファーザー、床:ナラ無垢材(植物系自然塗料つや消しクリア仕上げ) キッチン/トーヨーキッチンスタイル キッチン熱源/IHクッキングヒーター 給湯の種類/電気式ヒートポンプ給湯器 暖房の種類/電気式蓄熱暖房・エアコン

●著作権について
このページに記載されている記事本文、写真等は「住まいNET信州」VOL.26より転載しています。
こちらの情報の著作権は、住まいづくりデザインセンター信州に帰属します。
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